【降臨賞】空から降って来た味の無い話

 この前近所で娘の死体が降って来たというので自称サタニストの友人と屍姦をしに行ってきた。昔ブコウスキーの女の死体を犯す話を読んで興味を持ったのだ。友人は「この手の類の妄想は考えるが実行はしないな。教会に火はつけたけど。でもオレは犯罪者じゃなくてリベルタンだ」とサド風の弁明をしたが無視した。

 
 降って来た場所は砂浜だった。人々は皆娘を持ち去っていく、地引網の獲物を運ぶように。これで一杯やるとかはらわたが旨いとか今晩はご馳走だとか…食べるらしい。想像の上を行く事態につい「人を食った話だ」と言った。意外に常識人の友人にツッコまれた。


 帰ろうとしたら既に夜だった。空には満月。俺達以外の姿は無し。砂浜はいつか見た月の砂漠のようだった。波の音以外は静か。友人は軽く叫んだ。眼差しの先に娘の裸体があった。走り寄る。娘はついさっき死んだかのようだった。硬直は無く、脈は無いが眠っているだけのようだった。


 「オレがやるよ」「いやオレが」。獲物を目の前につまらないコントをした。友人をせかす「お前行けよ。放火に失敗して立場が無いんだろ」「屍姦はマズいだろ」「奴ら食ってるんだぞ。犯すぐらい平気だろ」「牛や豚を食っても犯りはしないだろ」「放火やっといてそれか」ふと視線を移せば娘が立ち上がっていた。


 冷たい眼差しで彼女は言った。「現れてみたらこれか。つまらない奴らね…」「待ってくれ!」「意気地なし!」「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」「うるさいうるさいうるさいうるさい」満月の下腕を組んで立つ彼女に向かって俺達は謝った。やがて彼女は眦を下げた。「バカ…一回づつだけなんだからね!」


 夜が明け、俺達は並んで座っていた。互いの息遣いを感じつつ体温は冷たかった。「何故俺達の前に?」「単なる気まぐれよ、ケンカしてね」彼女は曲げた膝に顔を埋めた。ややあって顔を上げた「そろそろ帰るわ…」「どこに」「あんた達が天国と呼ぶところかしら」呆けた俺達に言った「言っておくけど退屈よ。日常以上に」彼女は海に向かって歩いていった。「じゃあね。後は好きにして」俺達に微笑むと波間に崩れ落ちた。彼女から何かが飛んでいった。浮き沈み、流されて行く彼女を見つめていた。ずっと。「星の王女様かねえ」「天使の暇つぶしじゃないの?」「お前これで自慢できるな」「誰が信じるかよ」「まーある意味人を食った話だしな…」「帰るか」「そうだな」。

【降臨賞】空から女の子が降ってくるオリジナルの創作小説・漫画を募集します。

条件は「空から女の子が降ってくること」です。要約すると「空から女の子が降ってくる」としか言いようのない話であれば、それ以外の点は自由です。
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